増やすべきマーケチャネルは「CPA」では選べない|チャネルは「リード単価」ではなく「受注貢献」で比べる
安いチャネルを見つけて増やしたら、リードは確かに増えた。なのに、受注は伸びなかった——。新しいチャネルを検討したことがある方なら、この感覚に心当たりがあるのではないでしょうか。
「どのマーケティングチャネルを増やすか」を検討するとき、まず手が伸びやすいのは、CPA(獲得単価=Cost Per Acquisition。何を1件=獲得と定義するかで意味が変わる指標。広告運用では「リードを1件獲得する費用」を指してCPAと呼ぶことも多い)の安さと、取れるリード数です。どちらも比べやすい指標だからです。ところが、その物差しで選んだチャネルほど、増やしても受注につながらない——ということが、珍しくありません。なぜでしょうか。
たとえば、チャネルの良し悪しを「その先の商談化率・受注率」まで分解せず、リード数で見てしまう。あるいは、受注までの期間がチャネルごとに違うのに、同じ物差しで成否を判定してしまう。こうしたときはたいてい、判断がリード単価に引っ張られています。
結論を先にお伝えします。チャネルは「リード単価」ではなく、「受注までの貢献(トップライン貢献)」で比べるべきです。そのための物差しとなる5つの評価軸を、記事の後半でお渡しします。
はじめに:効かない場合も、正直に書きます
先にお伝えしておくと、本記事は「特定のチャネルを増やしましょう」とおすすめするためのものではありません。むしろ、この考え方が向かない会社には「使わない方がいい」とはっきり書きます。チャネルには目的別の向き不向きがあり、全部を同じ物差しで測ること自体が誤りだからです。なお、ここで扱う「受注貢献で比べる」という考え方が効くのは、立ち上げ期の母数づくりを終え、受注を伸ばす段階に入った会社です(この適用範囲は後半でもう一度触れます)。評価軸を一段引き上げるためのナレッジとして、フラットに共有できればと思います。
この記事でわかること
- なぜ「CPA・リード数」でチャネルを比べると、増やしても受注が伸びないのか
- チャネルを「受注貢献」で比べる5つの評価軸(ICP到達性/リードの質/成果の定義/コスト構造/改善の回しやすさ)
- 新チャネルを「小さく試して質で判断する」段階導入の考え方と、そもそも増やすべきでない場合
問題の再定義:「安いCPA」が、いちばん高くつくことがある
まず、CPAとリード数が何を映しているのかを整理しなおします。この2つは、あくまで「リードを1件取るまで」の指標です。受注までの長い道のりのうち、いちばん入口の一区間しか映していません。
ここに落とし穴があります。安いCPAだから受注に効くとは限らず、高いCPAだから効かないとも限りません。安さと受注貢献は、そもそも別の軸だからです。たとえば指名検索やハウスリスト(既存の見込み客リスト)の掘り起こしのように、安く取れて受注率も高いチャネルは実在します。一方で、無料資料のダウンロードのような摩擦の低いオファーは、同じ費用でも情報収集段階の接触を多く集めるため、リードは安く大量に積み上がっても、商談化の前で脱落しやすくなります。安さと質は反比例するわけではありませんが、「安く大量に取れる」ことと「受注に届く」ことは、別々に確かめる必要がある、というのが要点です。
つまり、CPA・リード数・CPC(クリック単価=Cost Per Click。1クリックあたりの費用)・インプレッション(表示回数)といった表面指標だけでチャネルを比べると、判断を誤ります。同じ「リード1件」でも、受注まで届く1件と、名刺が1枚増えただけの1件では、価値がまったく違うからです。この構造を、次の図で見てみましょう。

チャネルを「受注貢献」で比べる5つの評価軸
では、何で比べればよいのか。結論は、チャネルを1つの数字で見ないことです。リード獲得の入口から受注の出口まで貫く、5つの軸で見ます。順番に説明します。
① ICP到達性 = 狙う理想顧客像に、本当に届くチャネルか
まず問うべきは、そのチャネルが当てたい層(ICP=理想顧客像。狙うべき理想の顧客層)に届いているかです。リードが安く大量に取れても、狙う相手に届いていなければ、受注には効きません。到達先の「質の分母」を見る軸です。ここが外れていると、以降の軸をどれだけ磨いても回収できません(どのチャネルでも起点になる「誰に当てるか=ICP設計」は、本シリーズの別記事で扱っています)。
② リードの質 = 数で止めず、商談化率・受注率まで追う
リード数で評価を止めないことです。そのチャネル経由の「リード→商談→受注」の歩留まりまで追いかけます。チャネルごとに歩留まりは大きく違います。リード数が同じでも、商談化率・受注率が違えば、受注貢献はまったく別物になる——この前提で比べます。
③ 成果の定義 = どこを「成果」と置くか(この軸が最重要)
そのチャネルの成果を「リード獲得止まり」で置くか、「商談・受注まで追える設計」で置くか。これが5軸のなかで最も効きます。冒頭で触れたとおり、CPAという言葉自体が「何を1件=成果と定義するか」で意味が変わる指標であり(リード獲得を1件とするならCPL=Cost Per Lead=リード獲得単価に近い意味になります)、この定義の置き方こそが評価を左右します。「成果=リード数」で握ってしまうと、質の低いリードでも数字上は「成果あり」になり、部門間がリード数の押し付け合いに陥ります。マーケとセールスが、成果の定義を先に握っておくことが土台になります。
④ コスト構造 = 固定・変動・成果連動のどれか
そのチャネルの費用が、固定費/変動費/成果連動(例:CPA保証のような成果に応じた課金)のどれかを見ます。ここで一つ論点を添えます。成果連動型は、一見わかりやすく見えますが、その価値は「何をもって成果とするか=成果の定義(③)をどこに置くか」で決まります。「リード数の多さ」そのものが価値なのではありません。成果の定義が「リード獲得」に置かれた成果連動は、数は積み上がっても受注に効かない、ということが起こり得ます。
⑤ 改善の回しやすさ = データが取れ、PDCAが回るか
最後は、チャネル単位でデータが取れて改善(PDCA)が回るかです。数字が見えず改善できないチャネルは、当たり外れの運任せになります。回せるチャネルは、時間とともに受注貢献が積み上がっていきます。なお、こうしたマーケ・セールス・カスタマーサクセス(受注後)までの数字を部門横断で統合し、改善し続ける仕組み全体を、RevOps(レベニューオペレーション=収益に関わる部門横断の運用最適化)と呼びます。チャネル単位の改善しやすさは、その一部に位置づく、と捉えると整理しやすくなります。

チャネルにも向き不向きがある:目的で最適チャネルは変わる
ここで、もう一つ大事な前提があります。全チャネルを同じ物差し(CPA・リード数)で横並びに比べること自体が、誤りだということです。チャネルは、目的によって役割が違うからです。
チャネルの目的は、大きく3つに分かれます。(A) 認知拡大(まだ知られていない状態で、知ってもらう)/(B) 指名・反響の獲得(想起され、向こうから来てもらう)/(C) 新規商談の創出(まだ会えていない層に、こちらから接点を作る)。目的が違えば、見るべき軸も、最適なチャネルも変わります。
たとえば、認知拡大が役割のチャネルを「CPA・即時受注」で測ると、「効かない」と誤って判定してしまいます。逆に、新規商談の創出が役割のチャネルを「リード数」だけで測ると、いちばん大事な質が抜け落ちます。「何の目的で増やすのか」を先に決めてから、軸を当てる。この順番を守るだけで、判断の精度は変わります。
そして、ここは正直に書きます。本記事の考え方が向かない会社もあります。たとえば、とにかく大量のリード数・接触数を、できるだけ安く積み上げたい運用や、短いサイクルで刈り取るBtoC型のビジネスには、この物差しは重すぎて向かないことがあります(前述のとおり、立ち上げ期などまず母数を作るフェーズでは、量が正解のこともあります。ここで言っているのは、受注を伸ばす段階に入ってなお、量だけで比べ続けるケースです)。さらに実務上見落とされやすいのが、そもそもチャネル別に受注まで名寄せできる計測基盤(CRMやデータ連携)が無い会社です。5軸のうち④コスト構造・⑤改善の回しやすさはデータ基盤を前提にするため、基盤が無いうちは5軸採点は時期尚早で、まず計測できる状態を整えるのが先になります。自社がどの段階にいるのかを、先に見極めてください。
明日取れるアクション:新チャネルは「小さく試して質で判断」する
自社に向くと判断できたなら、次は動き方です。すぐ着手できることを3つ挙げます。ポイントは、新チャネルを「CPAが読めないから避ける」のではなく、受注貢献の期待値と学習コストで段階導入する、という考え方への転換です。
- 検討中のチャネルを、5軸で1枚に採点してみる(○△×の3段階で十分です)。このとき、各軸の最小データソースを1つずつ決めておくと動けます(例:①ICP到達性=到達リストや配信面がICPと重なるか/②リードの質=CRMのチャネル別・商談化率/③成果の定義=そのチャネルを何件で「成果」と握っているか/④コスト構造=固定・変動・成果連動の別/⑤改善の回しやすさ=チャネル単位でリード〜受注を分解できるか)。あわせて、事前に設計で決められる軸(③成果の定義・④コスト構造)は先に握り、実データがないと読めない軸(②リードの質・⑤改善の回しやすさ)は小さく試して確かめる、と分けて考えるのがコツです。
- 成果の定義(③)を「リード獲得数」から「商談化数・受注数」に置き換えて、既存チャネルを測り直す。可能なら、CPA(リード1件あたりコスト)だけでなく受注1件あたりコスト(CPO=Cost Per Order)やチャネル別の受注金額まで並べてみてください。順位が入れ替わることが少なくありません。安いと思っていたチャネルが、受注では割高だった——という発見が起こります。
- 撤退ラインを先に決めておく。ただしBtoBは商談〜受注に数か月かかることも多く、短期間で受注率は測れません。そこで、早期(例:導入後30日)は商談化率・有効商談率などの先行指標で仮判断し、受注率は自社の商談サイクル(例:3〜6か月)を待って確定させる、と分けて設計します。CPA保証のような成果連動型を使う場合は、契約の前に「何を成果と定義するか」を握っておく。ここを曖昧にしたまま始めると、数は積み上がるのに受注が伸びない、に逆戻りします。
まとめ——チャネルは「受注までの貢献」で比べる
増やしても受注が伸びなかったのは、チャネルが悪かったからではありません。「リード単価(CPA・リード数)」という物差しで比べていたからです。物差しを「受注貢献(5軸)」に替えると、選ぶチャネルも、増やし方も変わります。
整理すると、比べ方はこうです。
- ICP到達性:狙う理想顧客像に、本当に届くか
- リードの質:数で止めず、商談化率・受注率まで追う
- 成果の定義:リード獲得止まりか、受注まで追える設計か(最重要)
- コスト構造:固定/変動/成果連動。成果連動は「成果の定義」で価値が決まる
- 改善の回しやすさ:チャネル単位でデータが取れ、PDCA(RevOpsの一部)が回るか
物差しを「リード単価」から「受注貢献」に替えるだけで、見えてくるものは大きく変わります。いちばん効くのは、③成果の定義の置き換えです。まずは既存チャネルを商談化数・受注数(できれば受注1件あたりコスト)で測り直すところから始めてみてください。
なお、どのチャネルでも起点になる「誰に当てるか=ICP/ターゲット設計」と、姉妹記事「営業代行の選び方」も、本シリーズの別記事で扱っています(記事末の関連記事からお読みいただけます)。いずれも「表面指標で選ぶと失敗する/評価軸を一段引き上げる」という同じ思想です。手段は違っても、物差しの立て方は同じです。
チャネルを増やすかどうかの答えは、CPAの安さの中にはありません。「そのチャネルは、受注にどれだけ貢献するか」——この問いに替えることが、明日から変えられる、いちばん効く一手です。

執筆:呂 逸云(COELU株式会社 執行役員COO)