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アポは取れているのに受注が増えない理由|初回商談を「有効商談」に変える3つの設計

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アポイントの数は足りている。
それなのに、受注は思うように増えない——。

この問題を「アポの質が悪い」「営業の力不足」で片付けてしまう組織は少なくありません。しかし、パイプラインを商談フェーズごとに分解すると、原因はおおむね同じ場所に見えてきます。

それは、初回商談(SAL)から有効商談(SQL)への転換率が低いこと。多くの場合、ここに伸び悩みの理由があります。

SAL(Sales Accepted Lead)とは、マーケティングやインサイドセールスから渡され、営業が「商談に値する」と受け取ったリードのこと。SQL(Sales Qualified Lead)とは、営業が初回商談を経て「これは追う価値がある」と認定した案件です。
(※SAL/SQLの粒度は会社によって定義が異なります。本記事では「商談化=SAL/有効商談化=SQL」という運用上の意味で用います。)

多くの企業はSALの「数」を追います。しかし受注を左右するのは、SALがSQLに変わる転換率のほうです。ここが詰まっていると、アポを増やしても受注は比例して伸びにくくなります。

本記事では、この構造を営業プロセス設計の視点で分解し、初回商談の転換率を上げる3つの設計を解説します。先に結論を言えば、鍵は3つの設計です。なかでも3つ目は、最も効くのに最も見落とされています

この記事でわかること

  • なぜ今、「アポは取れるのに受注が増えない」状況が起きやすいのか
  • 受注を左右する「有効商談化の壁」とは何か
  • 初回商談を有効商談に変える「3つの設計」
  • そして最後に、自社の状態をたった1つの数字で測る方法

まずセルフチェック:
あなたの初回商談は「設計」されていますか?

初回商談が設計されているかは、商談の「前・中・後」で見ると整理できます。全部で8問あります。3つ以上「いいえ」があれば、設計で伸ばせる余地が大きい状態です。

商談前

  • 相手の企業・担当者・想定される課題を事前に調べ、仮説を立てて臨んでいるか
  • 初回商談のゴールを「提案・受注」ではなく「相手の課題を言語化すること」に置いているか

商談中

  • 何を聞くか(問いの順序)をあらかじめ設計しているか
  • 時間配分を決めており、自社サービスの説明に偏っていないか
  • 相手の意思決定の仕組み(誰が・どう決めるか)を把握しようとしているか
  • 自社サービスが役立つイメージを相手が持てたかを、相手の言葉で確認しているか

商談後(ここは個人より、組織・マネジメント側の問い)

  • 「有効/無効」を判断する、担当者間で共通の基準があるか
  • 進め方が担当者ごとにばらつかず、標準プロセスがあるか/SALからSQLへの転換率を計測しているか

これらの多くは、個人のスキルというより営業プロセスの設計の問題です。逆に言えば、設計で底上げできる余地があるということです。では、なぜ今これが問題として表面化しているのか。背景から見ていきます。

なぜ今、「受注が増えない」状況が起きやすいのか

背景には、BtoB営業を取り巻く3つの構造変化があります。

① 顕在層の枯渇と獲得単価の上昇

比較サイト、リスティング広告、展示会——課題が明確な「顕在層」にリーチする手段は、多くの企業がすでに活用しています。入札競争の激化なども重なり、リードの獲得単価(CPA=リード1件あたりの獲得コスト)は年々上がり、同じ予算で取れるリード数は減りやすくなっています。顕在層だけで売上計画を組み切るのは、以前より難しくなっています。

② ターゲットとチャネルの拡張

そこで多くの企業が、ウェビナー・ホワイトペーパー・アウトバウンドBDRといった新しいチャネルを開拓し、これまで対象としなかった「潜在層」にもアプローチし始めました。この判断自体は妥当です。ただし副作用として、「まだ自社の課題を言語化できていない」リードが商談パイプラインに増えていくことになります。

③ 「商談化」の定義のゆるみ

同時に、KPI達成のために「商談化」の定義がゆるむケースもあります。「会えれば商談」「初回アポが入れば商談化」といった運用では、SALの数は増えても、SQLへの転換率は下がりやすくなります。

この3つが重なったときに、「アポは取れる。でも受注は増えない」という状態が起きます。要因はアポの数や営業個人の力量というより、SALの質が構造的に変わったのに、初回商談のプロセスが以前のまま更新されていないことにあります。

受注を分ける壁——「有効商談化」とは何か

営業プロセスを定量的に捉えるフレームワークに、セールスベロシティ(営業の速度=売上が生まれるスピードを表す式)があります。

セールスベロシティ = 案件数 × 受注率 × 平均単価 ÷ 平均商談期間

この式が示すのは、売上を伸ばすレバーは4つだということです。案件数を増やす・受注率を上げる・単価を上げる・商談期間を短くする。

単価や商談期間も大切なレバーです。ただ、潜在層が増えた今の局面で最も毀損しやすいのが、先頭の「案件数」です。アポをいくら積んでも、その先で有効な案件(SQL)に変わらなければ、案件数は増えません。つまり効いてくるのは、案件数の創出を左右する入口=「SAL→SQL転換率」です。本記事がここに絞るのは、この一点が今の環境でいちばん詰まりやすいからです。

商談パイプラインは、次の4段階で進みます。


①→②はマーケティングとインサイドセールスの領域で、ここまでは設計できている企業が多いところです。注目したいのはその先の②→③——SALとして渡された商談を、受注確度のある案件(SQL)へ変えるプロセスです。

このフェーズを明示的に定義していない企業は少なくありません。「商談化」と「受注」だけを見ていると、その間で案件が滞留・消失していることに気づきにくくなります。まずはこのフェーズを営業プロセスに正式に組み込み、転換率を計測することが出発点になります。では、なぜこの壁を越えにくいのでしょうか。

なぜ従来のやり方では潜在層に通用しにくいのか

ここで、買い手が検討を進める段階(購買プロセス)の違いを整理します。よく顕在層・潜在層と二分されますが、実際にはあいだに「中間層」がいます。


顕在層中間層潜在層
購買段階意思決定(比較中)課題は認識、解決策は未定認知〜課題は漠然
課題認識明確。解決策を比較中自覚あり。優先度・解決策はこれから漠然、または未認識
商談で求めていること具体的な提案・価格・事例課題の整理と選択肢の見立て課題の気づき・整理
かみ合うアプローチ課題解決の提案課題の構造化と方向づけ課題の発見・言語化

顕在層には、自社の強み・競合との違い・導入事例を伝える「提案型」がかみ合います。一方、中間層・潜在層に同じ提案型をぶつけると、聞く準備が整っていない相手に解決策を語ることになり、かみ合いにくくなります。

そして売上インパクトが大きいのは、ターゲットには合致しているが、まだ前向きではない商談です。


A象限は放っておいても受注に近い領域です。B象限(中間層・潜在層のうち、適合度の高い相手)を初回商談でSQLに転換できるかが、組織全体の受注に効いてきます。ここからが、その設計の話です。

設計1:初回商談のゴールを再定義する
——「提案」ではなく「課題発見」

よくある初回商談を思い浮かべてみてください。冒頭15分で会社紹介、30分でサービス説明、最後に「一度、社内で検討します」。後日メールを送っても、返信は来ない——。誰もが一度は見たことのある光景です。

こうした商談に共通するのは、ゴール設定のつまずきです。

「初回商談=提案の場」と位置づけていると、冒頭から自社サービスの説明に入り、相手の課題を十分に聞かないまま商談が終わりがちです。顕在層ならそれでも成立しますが、課題が固まっていない相手には通用しにくくなります。

初回商談のゴールは、ディスカバリー(課題発見=相手自身に課題を気づいてもらうこと)に置き直すと整理しやすくなります。
ディスカバリーとは、相手の現状・課題・理想の状態・意思決定の仕組みを質問で引き出し、相手自身が「これは解決すべき課題だ」と認識する状態をつくるプロセスです。

ここで参考になるのが、SPINという質問の型です。やや古典的なフレームですが、いま見ても有効です。ただし注意点が2つあります。
ひとつは、下の例をそのまま読み上げる台本にしないこと。順番どおりに音読すると不自然になります。
もうひとつは、状況質問(Situation)は最小限にすること。事前に調べればわかる事実を商談で並べて聞くと、相手の負担になり、準備不足とも受け取られます。状況質問は事前リサーチで埋め、商談では問題・示唆・価値の問いに時間を使います。

質問タイプ目的意識したい問いの方向性
Situation(状況質問)相手の現状を把握(事前リサーチで埋め、商談では最小限に)事実確認は要点だけ。調べればわかることは聞かない
Problem(問題質問)課題を顕在化させるどこで詰まっているか、何が思うように進んでいないかへの問い
Implication(示唆質問)放置した場合の影響に気づいてもらうその状態が続くと、先々どう影響しそうかへの問い
Need-payoff(価値質問)解決時の価値を相手の言葉で語ってもらう改善できたら何が変わるか、を相手自身に語ってもらう問い

押さえどころは、S→P→I→Nの順を意識すること。とくにI(示唆質問)とN(価値質問)が効きます。ただし、I・Nは関係と課題がある程度見えてから踏み込むもので、初回はS・Pを軽めに、I・Nは深追いしすぎないのが現実的です。1回の商談で4タイプを回し切る必要はありません。

ディスカバリーは「売り込まない」という意味ではありません。相手の検討を前に進めるために、問いを設計するということです。ゴールが定まれば、次は時間の使い方が変わってきます。

設計2:商談の時間配分を構造化する(設計1を時間に落とし込む)

多くの初回商談(50〜60分)でよく見るのは、冒頭15分で会社紹介、残り30分でサービス説明、最後5分で「ご質問は?」という型です。これは提案型の構成で、顕在層にはかみ合いますが、中間層・潜在層には不向きです。

そうした相手の初回商談に適した時間設計は、次の3ブロックです(尺・相手の役職・課題の顕在度によって配分は調整します。決裁者相手で30分しか取れない、結論を先に求められる、といった場面では前後します)。


冒頭(10分)——自己開示とアジェンダの合意

冒頭でまず、自社が何の会社で、なぜこの商談に価値があると考えたのかを2〜3分で短く伝えます。相手はこちらが何者か十分に知らないまま座っていることが多く、ここを省いてヒアリングだけ始めると、かえって警戒させてしまいます。長い会社紹介は不要ですが、最低限の自己開示と仮説の提示は欠かせません。そのうえでアジェンダを合意します。「本日はまず御社の現状を伺い、お力になれる領域があるかを確認させてください。最後に、次に何ができそうかをご相談できればと思います」——この一言で、商談の枠組みが共有されます。

ディスカバリー(30分)——SPIN型の問いで課題を構造化する

商談の中心はここです。設計1の問いの型を意識して、相手の現状・課題・影響・理想を引き出します。狙いは、相手が「自社の課題」を自分の言葉にできる状態に近づけること。すべてを完璧に言語化させる必要はありません。決めた問いの順序を踏むこと自体が標準化の価値であり、引き出せないときの切り返しも用意しておくと、担当者による差が小さくなります。

ここで意識したいのは、この30分にサービス紹介を差し込みすぎないこと。相手の課題が見えてくる前に解決策を語ると、相手の中に「売り込まれている」という構えが生まれ、ディスカバリーが進みにくくなります。

価値の手応え確認(10分)——「役立ちそう」という手応えを確かめる

商談の最後に確かめたいのは、次回の日程でも見積もりでもなく、自社サービスが「自分たちに役立ちそうだ」というイメージを、相手が持てているかです。

価値が伝わっていない段階で金額や次回提案を持ち出すと、相手は身構えます。判定は営業の印象ではなく、相手の発話で行います。たとえば「ここまでの話で、御社のどの課題に役立ちそうか、イメージは持てましたか」と尋ね、相手が自分の言葉で「どの課題に・どう役立ちそうか」を具体的に語れたら、その商談はSQLの候補です。手応えが薄ければ、何が引っかかっているかを確認し、フォローの設計に回します。手応えが確認できれば、その流れで次回日程や具体提案に進んでかまいません。順番が逆にならないことが大切です。

設計3:「有効商談」を共通の基準で定義する
——商談認定基準の導入

冒頭で触れた、最も効くのに最も見落とされやすい設計がこれです。

「有効商談(SQL)」の定義が曖昧なままだと、営業プロセスの改善が難しくなります。

「温度感が高い」「なんとなく受注できそう」「担当者が前向きだった」——こうした営業の主観での認定が続くと、担当者ごとに基準がぶれ、転換率のKPIが比較しにくくなります。パイプラインの精度も、売上予測(フォーキャスト)の信頼性も下がっていきます。

そこで必要になるのが、全員が同じ基準で「有効か否か」を判断できる商談認定基準(クオリフィケーション)です。

エンタープライズ営業では、BANT・MEDDIC・GPCTBAなど複数の認定フレームワークが知られています。これらに共通するエッセンスを、初回商談向けに抽出すると、最低限おさえたいのは4つの条件です。順番にも意味があります。

有効商談の4条件(SQLと認める基準)

条件確認すること判断の目安
(営業の印象ではなく相手の事実・発話で判定)
① 価値の手応え自社が役立つイメージを相手が持てているか相手が自分の言葉で「どの課題に・どう役立ちそうか」を具体的に言語化したか
② 課題の優先度解決すべき課題として、優先度が上がっているか「放置できない」という趣旨を相手が語っているか
③ 決裁の構造誰が・どのように決めるかが見えているか意思決定者・決裁プロセス・関与者が把握できているか
④ 検討の現実性時期や予算など、実際に検討が動く見込みがあるか導入・意思決定の時間軸が見えているか/予算確保のプロセスがあるか

ポイントは、①の価値の手応えを起点にすること。価値が伝わっていない段階で③④を詰めにいくと、相手は身構えます。①→②→③→④の順で確認します。

ただし、初回商談で4条件すべてが揃うことは多くありません。潜在層・中間層は、定義上まだ予算化していないことが普通だからです。そこで運用は2段階に分けます。①②が満たされ、③④に現実的な道筋が見えれば「育成SQL」として追跡を継続。4条件が揃えば「本SQL」として本格的に追う。こうすると、本来追うべきB象限の案件を取りこぼさずに済みます。

この基準を、個人の裁量ではなく、営業プロセスの正式な「通過条件(次のフェーズに進むための条件)」として組織に実装することが大切です。通過条件があることでパイプラインの精度が上がり、フォーキャストの信頼性が生まれ、「どのフェーズで、なぜ落ちているか」がデータで見えるようになります。

まとめ——初回商談は、才能ではなく「プロセス設計」で変えられる

受注が増えにくい要因は、アポの数や個人のセンスだけではありません。潜在層・中間層が増えた市場環境に、初回商談のプロセス設計が追いついていないことが、見えにくい原因として残っています。

整理すると、やることは3つです。

  1. ゴールを「提案」から課題発見(ディスカバリー)に置き直す
  2. 時間配分を構造化し、ディスカバリーに商談時間の6割程度を目安に充てる
  3. 商談認定基準を導入し、SQLの基準を全員で共通化する(価値の手応えを起点に、決裁の構造まで含めて)

営業を「個人技の集合」ではなく、「再現できるプロセス」として設計する。同じアポ数でも、この設計があるかないかで、受注のかたちは変わってきます。

ここで、冒頭のセルフチェックを思い出してください。「いいえ」がついた項目はいくつあったでしょうか。その項目こそ、あなたの会社の②→③の壁です。そこから1つ、設計し直すだけでいい。

明日からの一歩:直近の初回商談を、この4条件で一度再判定してみてください。そのうえで「SQL数 ÷ SAL数」を1つ算出する。この数字こそ、冒頭で触れた自社を測るたった1つの指標です。これだけで、ボトルネックが②→③のどこにあるかが見え始めます。


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呂 逸云(COELU株式会社 執行役員CSO)