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情報が無限になった時代に、営業は何をするのか|営業の進化と、人に残る仕事

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いつもこのコラムでは、営業の現場ですぐ使える「型」や考え方をお届けしています。今日は少しだけ趣向を変えて、最近私がよく考えていることを、一つの読み物として綴らせてください。

正直に、ひとつ打ち明けることから始めさせてください。

私たちは今でこそ、社内のさまざまな業務にAIを使い倒しています。けれど本音を言えば、もっと早く始めればよかった、とずっと思っています。

当時の私は、いわば「潜在層」でした。自分が何を知らないのかを、知らない。だから自分からは探せないし、検索もできない。世の中にどれだけ情報があふれていても、そういう人間には届かないのです。

あのとき、本当に欲しかったものは、情報ではありませんでした。私の状況を分かったうえで、「これは効きます。動くなら、今です」と——たとえ自分が得をしなくても——本当のことを言って、決断を後押ししてくれる、一人の人間。それがいてくれたら、私たちの会社は、もっと速く動けたはずなのです。

この小さな後悔が、今日お話ししたいことの入り口です。

先に、お断りをひとつ。これは「お客様に早く決めさせるテクニック」の話ではありません。むしろ逆で、その手前にある「相手のために」という前提を外した瞬間に、すべてが崩れてしまう、という話です。

そして結論から申し上げます。AIが進むほど、営業の仕事は、なくなるどころか、むしろ「ひとつ」に研ぎ澄まされていく、と私は考えています。その「ひとつ」が何かは、最後にお伝えします。そこへたどり着くために少し遠回りをして、営業という仕事が、およそ60年でどう姿を変えてきたかを、一緒にたどらせてください。

この記事でわかること

  • 営業の役割が、なぜ・どのように変わってきたのか(およそ60年の進化史)
  • AIは、その長い物語の中で、どんな波なのか
  • 情報が無限になった時代に、人にしか残らない仕事とは何か

営業が「才能」だった時代

営業という仕事の原型は、「人」そのものでした。1960年代より前、ものを売る力は、多くの場合、その人の話術や度胸、人柄といった、才能に宿るものだと信じられていました。売れる営業は生まれつき。教えて再現できるものではなく、先輩の背中を見て盗むしかない。属人の芸の世界です。

この時代、営業が強かった理由は、はっきりしています。情報を、売り手が握っていたからです。何が良い商品で、いくらが相場で、どう使うのか——買い手はそれを知る手段を持たず、営業に聞くしかなかった。この情報の偏り(非対称性)こそが、営業の力の源でした。

ところが、その前提が、少しずつ崩れていきます。

才能が「技術」に変わった

最初の転機は、「売る」から「問題を解く」への発想の転換でした。ソリューション営業(課題解決型の営業)という考え方は、1970年代に生まれ、1980年代から90年代にかけて広まっていきます。商品を押し込むのではなく、相手の課題を理解し、その解決策として商品を位置づける。営業の重心が、商品から、顧客の課題へと移っていきました。

同じ頃、営業を「科学」に変えようとした本があります。1988年の『SPIN Selling』です。著者は、12年をかけ、23カ国でおよそ3万5千件もの商談を分析し、成果を出す営業は何が違うのかを突き止めようとしました。見えてきたのは、優れた営業ほど「語っていない」こと。代わりに、質問していた。状況を尋ね、問題に気づかせ、その影響を一緒に確かめ、解決後の理想を描かせる——その質問の流れに、再現できる型があったのです。

ここで何が起きたか。才能だと思われていたものが、教えられる技術になりました。生まれつきの素質ではなく、訓練すれば誰でも一定の水準に届くスキルとして、営業が捉え直されたのです。

そして、技術になったものは、次に「仕組み」へと乗っていきます。

技術が「仕組み」に乗った

1990年代後半から2000年代にかけて、営業は、組織の仕組みとデータに乗り始めます。象徴的だったのが、クラウドの登場でした。

「最初のSaaS(ソフトを買い切らず、ネット越しに使うサービス)は何か」と問われると、多くの人が、1999年創業のSalesforceを挙げます。「ソフトはもう売らない」と宣言し、営業の活動を記録・共有する仕組み(CRM=顧客管理システム)を、誰もが使える形にした会社です。厳密に世界初かどうかは諸説ありますが、「営業を仕組みで回す」という考え方を世に広げた象徴として、ここに置いておきたいと思います。

この時期には、もうひとつ大きな変化がありました。ソフトウェアにおけるサブスクリプション(継続課金)の普及です。売り切りなら、契約した瞬間がゴールでした。けれど継続前提のモデルでは、受注は始まりにすぎません。使い続けてもらえなければ、売上は消えていく。営業のゴールが「受注」から「その後も続く関係」へと延びたのです。

個人の技術が、組織の仕組みとデータに乗る。すると、次に起きたのは、分解でした。

仕組みが「分業」になった

2010年代、営業は「分業」の時代に入ります。

それまでは、一人の営業が、見込み客を探し、商談し、受注し、その後のフォローまで、すべてを抱えていました。これを、工程ごとに分ける。新しい接点をつくる人、商談を進めて受注する人、受注後の成功を支える人。役割を分け、それぞれが自分の工程を磨く。

この思想を広めたのが、2011年の『Predictable Revenue(予測可能な収益)』でした。日本でこの分業モデルを定着させたのは、2019年に出た福田康隆氏の『THE MODEL』です。分業によって、営業は「予測できる」ものになっていきます。どの工程に何件あれば、最終的に何件受注できるか。勘ではなく、数字で見通せるようになった。

ここでも、人の役割は動きました。「一人で全部できること」が価値だった時代から、「自分の工程を、再現性高く回せること」が価値の時代へ。

もっとも、分業がきれいにはまるのは、ある程度型にできる商談まで、という限界もあります。関与者が多く、一人では決まらない大型の商談では、いまも「誰か一人が、最後まで責任を持つ」ことの価値が、色濃く残っています。この点は、後でもう一度ふれます。

そして、工程を分ければ分けるほど、新しい問題が生まれました。つなぎ目の問題です。

分業が「収益の設計」になった

マーケティングと営業と、受注後を支えるカスタマーサクセス。それぞれが自分の数字だけを見て、つなぎ目で顧客を取りこぼす。部門の壁です。

そこで2010年代の半ば以降に広まったのが、レベニューオペレーション(収益全体をひとつなぎで運営する考え方)でした。マーケティングから営業、受注後の成功までを、ひとつの「収益を生むシステム」として捉え、データで貫いて設計する。営業は、独立した個人の活動ではなく、収益という大きな仕組みの一部として位置づけ直されました。

ここまでの流れを、一度まとめさせてください。


才能 → 技術 → 仕組み → 分業 → 統合。営業はおよそ60年をかけて、属人の芸から、再現できる収益システムへと進化してきました。そして——少なくとも私には、こう見えています。波が来るたびに「営業はもう要らなくなる」と言われ、そのたびに、機械やデータに任せられるようになったのは「作業」の側で、人の仕事は、より「判断」の側へと移ってきた。話術は技術になり、技術は仕組みになり、仕組みは分業になり、分業はデータになった。それでも、属人的なトップセールスがいなくなったわけではありません。仕事は置き換わったのではなく、人がやることが、上に上がっていったのです。

そして今、これまでで最大の波が来ています。

そして、AIの波が来た

AIです。

これまでの波とAIが決定的に違うのは、AIが「考える作業」そのものを担えることです。顧客を調べる。リストを作る。メールの文面を書く。商談を要約する。よくある質問に一次対応する。これまで人がやっていた作業を、AIは速く、安く、しかも疲れずにこなします。

正直に言えば、私はこの先、AIにできることは、まだまだ増えると思っています。「AIは潜在層には届かない」と言う人もいます。自分から探さない相手には、聞かれて初めて答えるAIは届かない、と。確かに、今はそうです。けれど、それは「今の技術」の話にすぎません。いつか、あなたの状況を深く理解したAIが、あなたがまだ問いを持つ前に、「これはあなたに効きますよ」と先回りして教えてくれる日も来るでしょう。

ただ、ここで立ち止まりたいのです。かりにAIが先回りして「効きますよ」と言えるようになったとして、それを受け取る側は、どう感じるでしょうか。おそらく、こう思います。「どうせ売りたいだけだろう」と。割り引かれずに届くのは、自分の損を引き受けてでも本当のことを言う、何かを賭けている者の言葉だけです。

だから私は、「AIに何ができないか」を数えるのは、もうやめようと思っています。リストも、文面も、提案も、その先回りさえ、いずれAIがやる。問うべきは、何段AIが上がってきても、最後まで人に残るものは何か、です。

私はこう思う——情報が無限になった時代に、人がやるべきこと

ここから先は、答えのない問いです。誰も正解を持っていません。その上で、「私はこう思う」という話をさせてください。

情報が、無限になりました。AIに聞けば、どんな選択肢も、根拠も、比較も、いくらでも出てきます。けれど不思議なことに、情報が増えるほど、人は決められなくなります。選択肢が多いから、ではありません。調べるほどに、選ばなかった道のリスクまで見えてしまい、「間違えたら、誰が責任を取るのか」という問いが重くなるからです。とりわけ、複数の関係者が関わり、稟議や決裁を越えなければならない法人の意思決定では、その重さは一段と増します。

だとすれば、ボトルネックは、もう「知ること」ではありません。「決めること」です。そして私は、AI時代の営業の役割は、ここにあると考えています。

顧客の意思決定を、相手のために前へ進めること。

無限の情報を前に立ちすくむ相手の隣で、何が本当に重要かを一緒に見極める。「ここは、もう決めていい」と背中を押すこともあれば、「ここは、まだ決めない方がいい」と止めることもある。決める順序を、一緒に設計することもある。冒頭で「早く決めさせるテクニックの話ではない」と申し上げたのは、このためです。ただ急がせるのではなく、相手にとっての正しい一歩を、前に進める。それが、これからの営業のいちばんの仕事になる、と思うのです。

ただし——ここが、何より大事なところです。これは「相手のため」であることが、絶対の前提です。

自分の数字のために決断を急がせれば、それはただの押し売りです。相手はいつか気づき、信頼は壊れ、次の決断は二度と前に進められません。逆に、本当に相手のために動けば、信頼が積み上がり、決断はだんだん速くなっていきます。だから「相手のため」は、営業を縛る制約ではありません。前に進め続けるための、燃料です。

そして、ここにこそ、AIには簡単に真似できないものがあります。「今は買わない方がいい」と、自分の損を引き受けてでも言えること。これは「人間だから信用される」という話ではありません。売りたいだけの営業なら、人間でも一瞬で見抜かれます。買い手が信じるのは、「この人は、自分が損をしてでも、本当のことを言った」という事実だけです。そして、自らの損を賭けて本当のことを言えるのは、相手の成功に責任を感じている当事者だけ——その当事者性は、いまのところ、何かを賭けられる人間にしか、宿りません。

営業は、なくならない

最後に、最初の告白に戻ります。

あのとき、潜在層だった私が本当に欲しかったのは、大量の情報でも、便利な道具でもありませんでした。私の状況を理解し、自分が得をするかどうかを超えて「これは効く。今、動いた方がいい」と本当のことを言い、決断を前に進めてくれる——そういう、一人の人間でした。

それは、営業が才能の時代からずっとやってきた、いちばん人間的な仕事です。情報を握る力でも、語る技術でも、仕組みを回す力でもない。相手のために、その人の意思決定を前に進めること。

だから私は、営業はなくならないと考えています。AIが下の層をすべて引き受けたあと、最後に残るのは、いちばん人間的な、その一点だけ。そして、そここそが、これからの私たちが、最も時間を使うべき場所です。



だからこそ私たちは、ご支援の現場でも、お客様の意思決定を「相手のために」前へ進めることに時間を使っています。新規開拓では、アポイントの一件一件を、その先の受注と継続まで見据えて設計する。情報があふれる時代に、お客様の決断をどう前に進めるか——もし営業のあり方を考えていらっしゃるなら、お気軽にお話しさせてください。



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執筆:呂 逸云(COELU株式会社 執行役員CSO)