受注を伸ばすカギは「誰に当てるか」|LTVから逆算するターゲットの決め方
新規開拓のテコ入れを任されたとき、多くの人がまず手をつけるのは、トークと量です。スクリプトを磨き、架電や訪問の数を増やす。ところが、しばらくして気づきます。アポは前より取れるようになったのに、受注は思ったほど増えていない、と。
これは、現場の頑張りが足りないからではありません。多くの場合、原因はもっと手前、誰に当てているか——ターゲットの選び方にあります。そして、ここを「アポの取りやすさ」で選んでしまうと、頑張るほど受注から遠ざかる、という逆転さえ起こります。
先に結論をお伝えします。受注の伸びしろの多くは、商談を始める前、誰に当てるかを決めた時点で決まっています。そしてターゲットは、目先の取りやすさではなく、受注と、その先に続くLTV(顧客生涯価値。一社との取引が、解約までに生む利益の総額)から逆算して選びます。
本記事では、
(1)なぜターゲットのズレは見えにくいのか
(2)ターゲットを「顕在度」と「LTV」の2つの軸で見直す
(3)受注から逆算して、狙う相手を絞り込む問い、の順にお話しします。
はじめに一つだけ、お断りしておきます。これは、アポをたくさん作るための話ではありません。むしろ逆で、数を追うのをやめて、受注につながる相手に絞るための話です。私たち自身、新規開拓を事業の一つとして手がけています。だからこそ、アポの件数ではなく、その先の受注と継続にこだわる前提で、お伝えします。
そしてもう一つ。前回は、アポの質は聞き方の設計で再現できる、というお話をしました(「そのアポ、ただの『日程調整』で終わっていませんか」)。本記事は、その一歩手前です。どれだけ聞き方を磨いても、そもそも受注につながらない相手に当てていれば、成果は出ません。誰に当てるか(今回)と、どう聞くか(前回)は、受注に向かう新規開拓の両輪です。
順番としては、今回のほうが上流にあります。
この記事でわかること
- なぜ「受注が伸びない=営業力の問題」と誤解されやすいのか
- ターゲットを「目先の取りやすさ」だけで選ぶと、受注の何を取りこぼすのか
- 受注から逆算して、狙う相手(ICP)を絞り込む問い
なぜ「ターゲットのズレ」は見えにくいのか
受注が伸びないとき、最初に矢面に立つのは、たいてい現場のトークや活動量です。けれど、本当の原因が、誰に当てているかにある場合、それはなかなか表に出てきません。やっかいなのは、ズレているときほど、その事実が見えにくくなることです。理由は2つあります。
一つめは、ターゲットのズレが、現場の責任にされやすいことです。受注が伸びないと、もっと良いトークを、もっと多くの商談を、という話になりがちです。けれど、誰に当てるかを、現場が自分で決めているとは限りません。多くの場合、渡されたリストに、与えられたやり方で当たっています。土俵そのものがずれていても、現場の努力不足として処理されてしまう。これでは、いくらトークを磨いても、受注は頭打ちになります。
二つめは、ターゲットの設計が、部門の境界に落ちてしまうことです。誰に当てるかを考えるのはマーケティング、実際に当てるのは営業、受注後に関係を続けるのはカスタマーサクセス、と役割が分かれているとき、ターゲットの設計は、しばしばどの部門の担当でもなくなります。リストはなんとなく既存の延長で作られ、当てた結果が、誰に当てるべきかの見直しに返ってこない。
だからこれは、現場個人の根性の問題ではありません。マーケティングから営業、カスタマーサクセスまでを一本でつないで設計する、収益全体の問題(レベニューオペレーション)として捉える必要があります。特定の部門の責任にしないこと。それが、この問題に向き合う出発点です。
ターゲットは「2つの軸」で見る——顕在度と、LTV
ここからが本題です。ターゲットを決めるとき、多くの現場が、知らず知らずのうちに頼ってしまう軸があります。取りやすさです。すぐ会えて、商談も前に進みやすい相手。短期で成果が見えやすいので、自然とそこへ寄っていきます。
この「取りやすさ」の正体を、相手の側から言い換えると、顕在度です。いま課題を自覚して、すでに探している相手ほど、顕在度が高い。顕在度が高ければ、すぐ会えて、話も早い。だから取りやすいわけです。逆に、まだ課題に気づいていない潜在層は、顕在度が低く、その分、最初は取りにくい。本記事では、この相手の状態を表す顕在度を、ひとつめの軸として使います。
もうひとつの軸が、LTV、つまりその相手が受注後に生む利益の大きさです。単価、契約の続く期間、そして将来の取引の広がり。これらを掛け合わせたものが、一社の本当の価値です。受注の金額は、最初の一件だけでは決まりません。
そして、ここが肝心なのですが、顕在度と、LTVは、しばしば逆を向きます。すでに探している顕在層ほど、相見積もりで比較され、競合も多く、取引が小さくなりがちです。逆に、大きな取引になる相手ほど、いまはまだ課題が表面化していない潜在層で、最初は取りにくい。だから、顕在度の高さ、つまり目先の取りやすさだけを追うと、受注の小さい相手に最適化されていきます。
この2つを軸にすると、ターゲットは大きく4つに分かれます。

- 顕在で、LTVも高い。理想ですが、競合も多く、現実にはそう多くありません。
- 潜在だが、LTVは高い。これが多くの場合、本命です。いまは探していない分、最初は取りにくいものの、競合が少なく、大きな取引になりやすい。
- 顕在で、LTVは低い。すぐ取れますが、活動量が出るわりに、受注の事業インパクトは伸びにくい象限です。
- 潜在で、LTVも低い。基本的に避ける相手です。
気をつけたいのは、評価が活動量やアポの件数に寄っているほど、現場はすぐ取れる顕在層、つまり右側、とりわけ右下の象限へ流れていくことです。本人たちに悪気はありません。むしろ、真面目に数字を追った結果として、受注の小さい相手に最適化されてしまう。これが、頑張っているのに受注が伸びない、の正体です。
では、本命は左上、潜在だがLTVの高い相手だ——と言い切りたいところですが、ここで2つ、補助線を引いておきます。
一つめ。潜在層は、まだ課題に気づいていない分、振り向いてもらうまでに手数がかかります。取りにくいということは、それだけ獲得にコストがかかるということです。ですから、LTVが高いという理由だけで飛びつくのは早計です。見るべきは、そのLTVが、獲得にかかるコストに見合うかどうか。割に合うか、という視点です。
二つめ。LTVは、受注後に初めて確定する数字です。これから当てようとするリストの段階では、まだ実際には測れません。ですから、当てる前は、LTVを見積もるしかありません。何で見積もるかは、次の章でお話しします。
そして、最も大切な前提をひとつ。LTVの高い相手を狙うのが、いつでも正解とは限りません。最適な象限は、自社の事業モデルによって変わります。薄く広く、数で取るモデルなら、顕在度が高くてLTVは低い右下を、意図して主戦場に選ぶのも、立派な戦略です。問題なのは、戦略として選ぶことではなく、評価制度に引かれて、無自覚にそこへ流れてしまうことです。どの象限を狙うのかを、意識して決める。それが、ターゲット設計の出発点です。
受注につながる相手を、どう特定し、絞り込むか
狙う象限が決まったら、その中の相手を、具体的に特定していきます。ここで使うのが、理想の顧客像、いわゆるICP(Ideal Customer Profile。自社が最も価値を提供でき、かつ最も価値が返ってくる、理想的な顧客の条件)という考え方です。
なお、新規開拓を、手法ではなく設計で考えるという視点そのものは、別記事「新規開拓は、手法選びではなく『設計』で決まる|『とりあえずアウトバウンド』が失敗する理由」でも扱っています。本記事は、その設計の入口にあたる、誰に当てるかに絞って掘り下げたものです。
最初に、よくある誤解を解いておきます。ターゲットを決めるとき、業種や企業規模だけで線を引いて、それで終わりにしてしまうことがあります。けれど、業種や規模が同じでも、抱える課題はばらばらです。
とはいえ、業種や規模が無意味なわけではありません。これらは、母集団を効率よく絞り込むための、入口のフィルタとして、とても有効です。捨てる必要はありません。大事なのは、そこで止めないこと。入口のフィルタに、次の条件を重ねていきます。
その前に、一点だけ補足です。誰に当てるかには、2つの層があります。どの企業を狙うか(ICP)と、その企業の中の誰に当てるか(窓口や決裁に関わる人)です。本記事では主に前者を扱いますが、最終的には、その中の誰に話すかまで決めて、初めてターゲットが定まります。
そのうえで、受注から逆算して、狙う相手を絞り込む問いは、次の4つです。
- 同じ課題を、同じくらい深刻に抱えているか。業種ではなく、課題で括ります。〇〇という課題を持つ会社、という定義の仕方をします。
- なぜ「今」その課題が起きるのか。課題が表に出てくるきっかけ(事業フェーズの変化、組織の改編、市場環境の変化など)を押さえます。このきっかけを持つ会社ほど、話が早く、受注までも速い。どんなきっかけが効くかは、扱う商材によって変わります。
- その相手にとって、自社が役立つ理屈を一文で言えるか。前回お伝えした、引き継ぎの一文と同じ考え方です。これが言えない相手は、まだ受注を見込める相手として固まっていません。
- それを、リスト上で見分けられるか。1〜3を、外から観測できる手がかりに落とします。公開情報や、相手の置かれた状況、最近の動きなどです。そして、ここに、LTVを見積もるための手がかりも含めます。企業の規模、対象になりそうな部門の予算感、課題が繰り返し起きる頻度、社内の他部署にも広げられそうか。これらが、当てる前にLTVを見積もる、代わりの手がかりになります。
この4つを言葉にしたものが、自社のICPです。ここまで来て初めて、ターゲットは、誰かの勘ではなく、誰が見ても同じように再現できるものになります。

ターゲットは、当てながら検証して絞る
最後に、運用の話です。最初に決めたICPは、あくまで仮説です。完璧な正解を、最初から当てることはできません。大事なのは、当てながら検証して、絞り込んでいくことです。
当てた結果を、まず先行指標で見ます。課題に合意できた商談の率、その先の有効商談の率。どの条件の相手が、受注へ前に進みやすかったか。判断を、現場の感覚ではなく、記録に基づいて行うのが、収益全体で設計するという考え方です。
そして、検証する指標は、受注では終わりにしません。受注後のLTVまで含めます。継続率、単価、追加の取引。受注した時点ではなく、その後どうなったかまで遡って、どの条件の相手が、本当に良かったのかを見ます。取りやすかった、受注できた、で終わらせず、その先まで見て初めて、ターゲットの良し悪しが分かります。
絞り込むと、当てられる母集団は小さくなります。ここで現実的なのは、相手をいくつかの段階に分けることです。本命の条件にいちばん近い相手は、手をかけて、設計して当てにいく。そこから外れる相手は、効率を重視して、広めに当てる。こうして、絞り込みと、当てる量の確保を、両立させます。
明日からの第一歩
読むだけで終わらないよう、すぐ着手できることを3つ挙げます。
- 受注が伸びないとき、まずトークではなく、リストを疑う。誰に当てているか、その土俵が合っているかを、最初に確認します。
- ターゲットの定義を書き換える。すぐ取れるか、ではなく、課題が深く、LTVが見合うか、で定義し直します。業種・規模に、課題・きっかけ・観測できる手がかりを重ねて、一枚にまとめます。
- 受注した相手を、その先まで見る。受注の数だけでなく、継続率や単価まで遡って、どの条件の相手が良かったかを振り返り、当たる条件に絞っていきます。
まとめ——「誰に当てるか」を変えれば、受注は伸びる
受注が伸びないとき、原因はトークや量の手前、誰に当てているかにあることが、少なくありません。そしてターゲットは、目先の取りやすさだけで選ぶと、LTV、つまり本当に価値のある相手を取りこぼします。
どう話すか、どれだけ取れるか、の前に、誰に当てるか。課題が深く、そして割に合う相手か。それを、勘ではなく設計で決める。これが、受注の歩留まりと、その先の事業の伸びを、根本から変えていきます。
最後に、2つの問いをお渡しします。
ターゲット:自社が当てているリストは、目先の取りやすさで選んでいないか。それとも、課題の深さとLTVで選んでいるか。
再現性:その線引きは、特定の人の勘ではなく、誰が見ても同じように引ける状態になっているか。
この2つに、はい、と言えるようになったとき、新規開拓は、当てずっぽうから設計へと変わります。そして、そうして選んだ相手から、どうやって課題を引き出し、受注へ近づけるのか。その聞き方の設計は、前回「そのアポ、ただの『日程調整』で終わっていませんか」で詳しくお話ししています。あわせてお読みいただくと、誰に当てるかから、どう受注につなげるかまでが、一本でつながります。
私たち自身、ご支援先では、まず誰に当てるかの設計から入ります。アポの数を追う前に、ターゲットの条件を、課題とLTVの両面から引き直す。遠回りに見えて、これがいちばん受注に効くからです。
もし、自社のターゲット設計やリストの見直しに悩んでいるときは、お気軽にご相談ください。
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